まず結論:比べる相手をそろえると、信託報酬は効いてくる
今回の集計の結論を先にまとめると、次の3つです。
- 性格の違うファンドを全部まとめて比べると、信託報酬と成績の関係は意外なほど弱い
- 同じ資産クラス(国内株式どうし、など)で比べると、「高コストほど低リターン」の傾向がはっきり出る
- 同じ指数に連動するファンドどうしなら、コストの差がほぼそのまま成績の差になる
つまり信託報酬は、タイプの違うファンドを見比べるときの決め手にはなりませんが、「同じ中身のファンドから1本を選ぶ」場面では確実に効いてくる比較材料でした。以下、2022年9月から2025年9月までの実績データで順に確認します。
信託報酬とは?保有中ずっと引かれ続けるコスト
信託報酬とは、投資信託を保有している間、信託財産から毎日少しずつ自動的に差し引かれる運用管理費用です。自分で「支払う」操作はなく、基準価額にあらかじめ織り込まれる形で負担しています。年率で表示され、たとえば年0.1%なら100万円の保有で年間およそ1,000円です。
まず、料率の水準そのものがファンドのタイプで大きく違います。今回集計した736本の中央値は次のとおりでした。
指数に連動するインデックス型と、運用者が銘柄を選ぶアクティブ型では、中央値だけでも4倍近い開きがあります。安いものと高いものでは料率に10倍以上の差があり、「投資信託のコスト」とひとことで言っても幅はかなり広いのが実態です(インデックス・アクティブの分類はファンド名に基づく機械分類です)。
全部まとめて比べると、関係は弱く見える
では、信託報酬が安いファンドほど成績が良かったのでしょうか。関係の強さを測る物差しとして相関係数を使います。相関係数は2つの数字の連動度合いを-1〜+1で表すもので、0に近いほど関係が薄く、マイナスなら「片方が高いほど、もう片方は低い」傾向を意味します。
736本すべてをまとめて計算すると、信託報酬と年率リターン(CAGR)の相関は-0.104。「高コストほど低リターン」の方向ではあるものの、ほぼ無関係といってよい弱さです。リスクを考慮した効率を表すシャープレシオとの相関でも-0.249と、弱い負の関係にとどまりました。
信託報酬の水準ごとにグループ分けして成績の真ん中の値(中央値)を並べると、低コスト帯ほど成績が良く「見える」結果にはなっています。
| 信託報酬帯 | 本数 | リターン(CAGR) 中央値 | シャープレシオ 中央値 |
|---|---|---|---|
| 0.2%以下 | 73 | 22.08% | 1.51 |
| 0.2%超〜0.5%未満 | 136 | 15.94% | 1.47 |
| 0.5%以上〜1.0%未満 | 189 | 14.57% | 1.31 |
| 1.0%以上 | 338 | 12.985% | 0.955 |
低コスト帯には株価指数に連動するインデックスファンドが多く、高コスト帯にはテーマ型・アクティブ型が集中しています。2022年9月〜2025年9月は株式が好調な期間だったため、この表の差には「コストの差」だけでなく「どの資産を持っていたかの差」が大きく混ざっています。タイプの違うファンドを混ぜて比べると、コストの効果は正しく見えません。そこで次は、比べる相手をそろえてみます。
同じ資産クラスどうしで比べると、はっきり関係が出る
資産クラス(投資先の種類)をそろえて、同じクラスの中だけで信託報酬とリターンの相関を計算し直すと、様子が一変します。
| 資産クラス | 本数 | 信託報酬×リターンの相関 |
|---|---|---|
| 国内株式 | 116 | -0.6491 |
| 先進国株式 | 34 | -0.5994 |
| 新興国株式 | 60 | -0.5307 |
| 米国株式 | 41 | -0.3348 |
| 債券 | 87 | 0.1019 |
| REIT | 64 | -0.0563 |
株式系のクラスでは、どれもマイナスの相関(-0.33〜-0.65)が出ました。同じ国内株式ファンドどうしで比べれば、「信託報酬が高いほどリターンが低い」傾向がはっきりあった、ということです。シャープレシオとの相関でも株式系は同じ傾向でした(例:先進国株式-0.6218、新興国株式-0.5714)。
一方、債券(0.1019)とREIT(-0.0563)ではほぼ関係が見えませんでした。資産クラスによってコストの効き方が違う点も、まとめて比べたときに関係がぼやける一因です。
同じ指数に連動するファンドなら、コスト差がほぼ成績差
いちばん条件がそろうのは、同じ指数に連動するインデックスファンドどうしの比較です。運用の中身がほぼ同じなので、成績の差はコストの差で説明しやすくなります。
たとえばS&P500に連動する11本では、いちばん高い料率といちばん安い料率の差が0.5412ポイント、年率リターンの差が1.49ポイントでした。しかも「料率が安い順」と「リターンが高い順」がほぼ一致しており(相関-0.9497)、コストの安さがそのまま成績に表れる形になっています。
| 同じ指数の ファンド群 | 本数 | 信託報酬の差 (最高-最低) | リターンの差 (最高-最低) |
|---|---|---|---|
| S&P500 | 11 | 0.5412pt | 1.49pt |
| MSCI ACWI(日本含む) | 3 | 0.1404pt | 0.25pt |
| FTSE全世界 | 2 | 0.0768pt | 0.09pt |
| 日経225 | 20 | 0.5555pt | 2.46pt |
| TOPIX | 14 | 0.5170pt | 2.87pt |
| NASDAQ100 | 3 | 0.0550pt | 0.22pt |
高コストでも好成績だったファンドはある
「高コスト=必ず負ける」わけでもありません。信託報酬1.0%以上の338本のうち60本(約17.8%)は、全体のリターン上位25%に入っていました。テーマ型やアクティブ型の一部が、この期間の市場環境で大きく伸びたためです。
ただし、リスクの大きさまで考慮したシャープレシオで見ると、全体の相関は-0.249と高コスト側の不利がやや広がりました。リターンだけなら反例はあるが、リスクに見合っていたかで見ると高コストは分が悪い、というのがこのデータの示すところです。
信託報酬0.1%と1.0%の差は、30年で約96万円
最後に、コストの差「だけ」を取り出すとどれくらい効くのかを単純計算で確かめます。元本100万円を、費用を引く前の年率5%で30年運用できたと仮定し、信託報酬だけを変えて複利計算すると次のようになりました。
| 信託報酬 | 30年後の金額 | 0.1%との差額 |
|---|---|---|
| 0.1% | 4,200,149円 | — |
| 0.5% | 3,745,318円 | -454,830円 |
| 1.0% | 3,243,398円 | -956,751円 |
| 2.0% | 2,427,262円 | -1,772,886円 |
0.1%と1.0%の差は、30年でおよそ96万円。年0.9ポイントの違いでも、長い時間をかけると元本に匹敵する規模まで膨らみます。これは信託報酬差だけを固定した試算で、実際のリターンの変動、税金、分配、売買費用、資金の出し入れは含みません。下の電卓で、元本・リターン・年数・料率を自由に変えて試算できます。
信託報酬コスト差電卓
元本・想定リターン・運用年数と、比べたい2つの信託報酬を入力すると、最終金額の差を自動計算します。初期値は上の表と同じ条件(元本100万円・費用控除前の年率5%・30年・0.1%と1.0%)です。自由に書き換えて試算できます。
元本は1万円以上、運用年数は1〜70年、リターンは-50〜50%、信託報酬は0〜10%の範囲で入力してください
※本電卓は「毎年同じリターンから信託報酬だけを差し引く」単純な複利計算です。実際のリターンの変動、税金、分配、売買費用、資金の出し入れは含みません。特定ファンドの推奨や将来の成果の示唆ではありません。
まとめ:信託報酬は「同じものを比べるとき」の決め手
今回の集計から言えるのは、全体だけを見て「高コストは必ず低リターン」と結論づけるのは単純化しすぎだ、ということです。タイプの違うファンドが混ざると、成績の差には市場環境の影響が大きく入ります。
一方で、同じ資産クラス、特に同じ指数に連動するファンドどうしでは、信託報酬の低さが成績の差にほぼそのまま表れました。コストだけで将来の成果は決まりませんが、比較条件をそろえた場面では、信託報酬は大きな判断材料になります。
気になるファンドを実績データで比べる
Fund Labのランキングでは、収録ファンドをリターン・シャープレシオ・ボラティリティ・最大ドローダウンで並べ替えて確認できます。数値は過去データであり、投資推奨ではありません。
本記事のデータと方法
対象はFund Labのランキング用データに含まれる投資信託748本です。信託報酬の抽出に成功した736本を集計し、確認が必要な12本は除外しました。集計対象期間は2022年9月から2025年9月です。
信託報酬は、各ファンドの開示資料・公表情報に基づく直近値です。期間中の引き下げは原則として過去にさかのぼって反映していません。実質的な負担が併記されているファンドは実質値を優先し、売買委託手数料など事後的に変動する費用は含めていません。段階料率のファンドは基本料率を採用しています。
リターンは信託報酬控除後の基準価額ベースで、分配金を考慮していません(当サイト共通の算出基準)。分配実施ファンドは低めに出る場合があります。本文の相関係数は順位に基づく相関(Spearman相関)です。なお、2022年9月から2025年9月までの期間は株式の上昇局面を含むため、低コストが将来のリターンを保証するものではありません。