まず結論:数字は「合格」、ただし前提は楽観的
今回の試算の結論を先にまとめると、次の3つです。
- 株式を含む配分では、年4%どころか年6%相当の定額取り崩しでも、20年以内に資産が尽きた試行は1,000通り中0件だった。
- 唯一枯渇が出たのは債券100%×年6%の組み合わせで、確率1.4%(尽きた試行の時期は中央値で約19年目)。
- ただしこの結果は、株式に強い追い風が吹いた直近約5年半のデータを20年に引き延ばしたもの。「日本でも4%ルールは絶対安全」という意味ではない。
つまり見出しの問いへの答えは「直近データ上は通用した。しかしその『通用した』は割り引いて読む必要がある」です。順番に見ていきます。
4%ルールとは?30秒でおさらい
4%ルールは、米国の過去データを使った研究に由来する経験則で、「引退時の資産から初年に4%を取り崩し、以後は物価上昇に合わせて取り崩し額を増やしていっても、資産は30年もつ可能性が高かった」という内容です。たとえば2,000万円なら初年80万円(月あたり約6.7万円)が目安になります。
ポイントは3つあります。①検証されたのは米国の株式と債券の組み合わせ、②期間は30年、③あくまで「過去はそうだった」という話で、将来の保証ではない——ということです。日本で買える投資信託・円建てで同じことを試したらどうなるのか。それが今回の検証です。
検証の条件
当サイトの取り崩しシミュレーションと同じ計算方法で、次の条件を試しました。
| 開始資産 | 2,000万円 |
| 取り崩し方式 | 毎月定額(開始資産の年3%・4%・5%・6%相当を12等分。例:4%=月約6.7万円) |
| 期間 | 20年(ツールで再現できる最長期間) |
| 配分 | 全世界株式と先進国債券を5パターン(株式100%〜債券100%) |
| 試行回数 | 各条件1,000通り(2020年4月〜2025年10月の月次実績からランダムに並べ直すモンテカルロ法) |
結果①:枯渇確率はほぼ全部0%だった
各配分・各取り崩し率で「20年以内に資産が尽きた試行の割合(枯渇確率)」を集計した結果です。
| 配分 | 年3% (月5万円) | 年4% (月約6.7万円) | 年5% (月約8.3万円) | 年6% (月10万円) |
|---|---|---|---|---|
| 株式100% | 0% | 0% | 0% | 0% |
| 株式75%・債券25% | 0% | 0% | 0% | 0% |
| 株式50%・債券50% | 0% | 0% | 0% | 0% |
| 株式25%・債券75% | 0% | 0% | 0% | 0% |
| 債券100% | 0% | 0% | 0% | 1.4% |
1,000通り×20パターンを試して、枯渇が出たのは「債券100%で年6%(月10万円)を取り崩し続ける」という1パターンだけ。それでも確率は1.4%で、尽きた試行の時期は中央値で約19年目でした。
結果②:年4%で取り崩しても、20年後の中央値は増えていた
枯渇しなかっただけでなく、多くの配分では取り崩しながら資産が増える結果になりました。年4%(月約6.7万円)で20年取り崩した後の残高です。
| 配分 | 20年後残高の中央値 | 下位5%(悪いシナリオ) |
|---|---|---|
| 株式100% | 約11.4億円 | 約3.8億円 |
| 株式75%・債券25% | 約5.1億円 | 約2.1億円 |
| 株式50%・債券50% | 約2.2億円 | 約9,900万円 |
| 株式25%・債券75% | 約8,900万円 | 約4,300万円 |
| 債券100% | 約3,200万円 | 約1,400万円 |
2,000万円で始めて毎月6.7万円ずつ使ったのに、株式100%の中央値は約11.4億円。冷静に考えて、これは「うますぎる」数字です。なぜこうなるのかが、この記事でいちばん大事なポイントです。
なぜ全部0%になったのか——この結果を鵜呑みにしてはいけない理由
種明かしはシンプルで、試算のベースにした期間(2020年4月〜2025年10月)の成績が高すぎるからです。この約5年半は世界的な株高と円安が重なった時期で、各配分の平均リターン(年率換算)は次のようになっていました。
| 配分 | ベース期間の平均リターン(年率換算) |
|---|---|
| 株式100% | 約24.9% |
| 株式50%・債券50% | 約15.1% |
| 債券100% | 約6.0% |
年に約25%増える前提の世界では、年4〜6%の取り崩しなど誤差にすぎません。モンテカルロ法はこの期間の月次リターンをランダムに並べ直して20年分つくるため、「絶好調な5年半が20年続いたら」というシナリオ群を検証していることになります。長い歴史では株式の平均リターンはこれよりずっと低く、しかも下落が何年も続く局面が存在します。本家4%ルールとの違いも含めて整理すると、次のようになります。
| 本家4%ルール | 本記事の試算 | |
|---|---|---|
| 検証期間 | 30年 | 20年(ツールの上限) |
| 取り崩し額 | 物価上昇に合わせて毎年増額 | 増額なしの定額(甘めの条件) |
| ベースデータ | 好況も不況も含む数十年分 | 直近約5年半(上昇局面中心) |
| 対象資産 | 米国株式・米国債券 | 全世界株式・先進国債券の投資信託(円建て・信託報酬控除後) |
| 税金・手数料 | どちらも売却時の税金等は考慮せず(課税口座では手取りが減ります) | |
まとめると、本試算が本家より「合格しやすい」方向の条件が3つ(期間20年・増額なし・上昇局面のデータ)重なっています。枯渇確率0%は「この条件なら0%だった」以上の意味を持ちません。
それでも、この試算から学べる3つのこと
① 出口設計の主役は「取り崩し率」
今回のような楽観的な前提でも、債券100%×年6%では枯渇が発生しました。取り崩し率が資産の増える力を上回れば、資産は確実に減っていきます。別の検証では、同じ2,000万円でも毎月20万円(年12%)に上げると約7割が20年以内に枯渇しています。「何%引き出すか」が出口設計の核心であることは、前提が変わっても揺らぎません。
② 判断は中央値ではなく「悪いシナリオ」で
中央値はシナリオの真ん中にすぎず、実際の老後は1回しか起きません。表に載せた下位5%のような悪い側の数字を基準に、それでも生活が成り立つ取り崩し額を選ぶのが安全側の設計です。今回のようにベース自体が楽観的な場合は、下位5%すら楽観的になり得ることも覚えておいてください。
③ 「4%」を絶対視せず、低めから始めて調整する
本家の研究でも4%は「過去の最悪ケースでも耐えた水準」であって、魔法の数字ではありません。率を1%変えるだけで結果が大きく動くのは今回の表のとおりです。実際の運用では低めの率で始めて、資産と相場の状況を見ながら調整していく——という運用が、ルールを固定するより現実的です。
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本記事のデータと方法
計算は当サイトの取り崩しシミュレーションと同一のロジックで行いました。全世界株式・先進国債券は、当サイトのアセットクラスモードと同じ代表的なインデックスファンドの月次実績(信託報酬控除後の基準価額ベース・分配金は考慮しない当サイト共通の算出基準)を使用しています。両者がそろって利用できる2020年4月〜2025年10月(月次66回分)のリターンから、毎回ランダムに240ヶ月分を並べ直して1試行とし、各条件1,000通りを生成しました。取り崩しは月初に行い、その後に月次リターンを適用しています。
モンテカルロ法は乱数を使うため、同じ条件でも実行のたびに結果が数%程度変動します。本文の数値は一度の試算のスナップショットとして読んでください。また、売却時の税金・取引に伴う費用・物価上昇は考慮していません。ベース期間は株式の上昇局面を含むため、結果は楽観的に出やすい点に重ねてご注意ください。