定額取り崩し vs 定率取り崩し
どっちがいい?1,000通りで比較

「毎月10万円ずつ」と金額を決めて取り崩すのが定額、「残高の4%ずつ」のように割合で取り崩すのが定率。老後の出口設計で必ずぶつかるこの選択を、同じ条件(2,000万円・株式50%債券50%・20年)で1,000通りシミュレーションして比べました。結論は「どちらが優れているか」ではありません。定額は枯渇リスクと引き換えに受取を固定し、定率は受取の変動と引き換えに枯渇をなくす——どちらのリスクなら受け入れられるかで、選び方が決まります。

まず結論:優劣ではなく「どちらのリスクを取るか」

今回の比較の結論を先にまとめると、次の3つです。

  • 定額は受取が完全に固定される代わりに、資産が尽きる可能性を構造的に抱える。今回の試算では年9%相当(月15万円)で枯渇確率0.4%が出現した。
  • 定率はどの水準でも枯渇0%(構造上ゼロ)だが、毎月の受取額が変動する。年4%では最悪期(下位5%)に月約5.8万円まで減った(開始は月6万6,667円)。
  • ベースにした期間には長い下落局面がないため、定率の受取の下振れも、定額の枯渇確率も、実際にはこの試算より厳しくなり得る。

つまり「毎月の生活費を固定したい」なら定額、「資産を絶対にゼロにしたくない」なら定率が向いています。どちらのリスクが自分にとって受け入れやすいか——それがこの選択の本質です。順番に見ていきます。

2つの方式、何が違う?30秒でおさらい

定額取り崩し:毎月「◯円」と金額で決める

たとえば2,000万円から毎月6.7万円ずつ、と金額を固定する方式です。残高がいくらになっても受取額は同じなので、家計の計画は立てやすい反面、資産が減っても同じ金額を引き続けるため、下落が長引くと資産が尽きる可能性があります。

定率取り崩し:毎月「残高の◯%」と割合で決める

たとえば「そのときの残高×年4%÷12」を毎月取り崩す方式です。資産が増えれば受取も増え、減れば受取も減ります。残高に割合を掛けるので計算上は残高がゼロにならない——受取額が自動で調整される「ブレーキ付き」の方式と言えます。

検証の条件

当サイトの取り崩しシミュレーションと同じ計算方法で、両方式を同一条件にそろえて比較しました。

開始資産2,000万円
配分全世界株式50%・先進国債券50%
期間20年(ツールで再現できる最長期間)
水準年4%・6%・9%相当の3段階(定額=開始資産に対する年率を12等分した固定額/定率=毎月の残高×年率÷12)
試行回数各条件1,000通り(2020年4月〜2025年10月の月次実績からランダムに並べ直すモンテカルロ法)
前提の注意:ベースにした期間は株式の上昇局面が中心のため、結果は両方式とも楽観的に出やすくなっています(詳しくは4%ルール検証記事で解説)。この記事では金額の絶対値よりも、2方式の「性質の違い」に注目して読んでください。

結果①:年4%で直接対決

まずは同じ「年4%相当」(開始時点で月6万6,667円)で、両方式を並べて比較します。

定額(月6万6,667円)定率(年4%)
毎月の受取額固定(常に6万6,667円)変動(開始6万6,667円)
受取が最も減った月(下位5%)変わらず6万6,667円約5.8万円
20年間の受取総額1,600万円(固定)中央値 約4,900万円
(約3,000万〜約8,000万円)
20年後の残高(中央値)約2.2億円約1.4億円
20年後の残高(下位5%)約9,900万円約6,800万円
20年以内の枯渇確率0%0%(構造上ゼロ)

目を引くのは定率の受取総額で、定額の約3倍です。これはベース期間の高リターンで資産が膨らみ、受取額もそれに比例して増え続けたから。最終月の受取額は中央値で月約45万円まで増えていました。

ここが定率の本質です。受取額が資産に連動するということは、増える局面ではこう見えますが、資産が3割減れば受取も3割減るということでもあります。ベース期間に長い下落局面がないため、この表では定率の「受取が細る怖さ」が数字に出にくくなっています。

結果②:水準を上げると「枯渇リスクは定額側だけ」に積み上がる

取り崩しの水準を年6%相当(月10万円)、年9%相当(月15万円)へ上げて、両方式の枯渇確率と、定率の受取の下振れを見ます。

水準(開始月あたり)定額:枯渇確率定率:枯渇確率定率:受取が最も減った月
(下位5%)
年4%(6万6,667円)0%0%約5.8万円
年6%(10万円)0%0%約8.4万円
年9%(15万円)0.4%0%約11.3万円

定額は年9%(月15万円)で枯渇が現れ始めました(尽きた試行の時期は中央値で約18年目)。今回のベースは株式に追い風の期間なので0.4%にとどまっていますが、別の検証では月20万円(年12%)まで上げると約7割が枯渇しています。取り崩し水準を上げるほど、また相場が悪いほど、枯渇リスクは定額側だけに積み上がっていきます。

一方の定率は、率を上げても枯渇はしません。ただしタダではなく、資産の目減りが速くなります。年9%の20年後残高は中央値約5,000万円(下位5%約2,500万円)と、年4%の約1.4億円より大幅に少なくなりました。

それぞれの「本当の弱点」を知っておく

定額の弱点:ブレーキがない

定額は資産がいくら減っても同じ金額を引き続けます。特に怖いのが取り崩し開始直後に大きな下落が来るケースです。減った資産から同額を引き続けると、回復のための元本そのものが削られてしまい、後から相場が戻っても間に合わないことがあります(シーケンスリスクと呼ばれます)。枯渇確率の数字は小さく見えても、このリスクは定額だけが構造的に抱えるものです。

定率の弱点:「枯渇しない」は「生活費が守られる」ではない

定率は計算上枯渇しませんが、それはリスクが消えたのではなく、「資産が尽きるリスク」が「受取額が細るリスク」に置き換わっているだけです。資産が3割減れば毎月の受取も3割減ります。今回の試算では最悪期でも開始比1〜2割程度の減少にとどまりましたが、これはベース期間に長い下落局面がないため。数年続く下落相場では、生活費がその間ずっと細り続けることを覚悟する必要があります。

併用という考え方もある

どちらか一方に決める必要はありません。たとえば生活に最低限必要な金額は年金+定額で固定し、旅行や趣味などの余裕部分は定率で——のように、支出の性質で方式を分ける考え方もあります(一般的な考え方の紹介であり、特定の方法を推奨するものではありません)。

自分の金額で「定額」と「定率」を見比べる

当サイトの取り崩しシミュレーションは、定額・定率を切り替えて試算できます。開始資産・水準・期間・配分を自由に変えて、枯渇確率と受取額の分布を1,000通りで確認してみてください。無料・登録不要です。

本記事のデータと方法

計算は当サイトの取り崩しシミュレーションと同一のロジックで行いました。定額は「開始資産×年率÷12」の固定額を、定率は「毎月の残高×年率÷12」を、いずれも月初に取り崩し、その後に月次リターンを適用しています。全世界株式・先進国債券は、当サイトのアセットクラスモードと同じ代表的なインデックスファンドの月次実績(信託報酬控除後の基準価額ベース・分配金は考慮しない当サイト共通の算出基準)を使用し、両者がそろって利用できる2020年4月〜2025年10月(月次66回分)のリターンから、毎回ランダムに240ヶ月分を並べ直して1試行とし、各条件1,000通りを生成しました。

「受取が最も減った月」は、各試行の240ヶ月の中で最小だった月あたり受取額を集計した下位5%の値です。モンテカルロ法は乱数を使うため、同じ条件でも実行のたびに結果が数%程度変動します。本文の数値は一度の試算のスナップショットとして読んでください。また、売却時の税金・取引に伴う費用・物価上昇は考慮していません。ベース期間は株式の上昇局面を含むため、結果は両方式とも楽観的に出やすい点に重ねてご注意ください。

よくある質問

Q. 定額取り崩しと定率取り崩しの違いは何ですか?
定額は「毎月◯円」と金額を固定して取り崩す方式、定率は「そのときの資産残高の年◯%」を取り崩す方式です。定額は受取額が安定する一方で資産が尽きる可能性があり、定率は計算上資産が尽きない一方で毎月の受取額が資産の増減に合わせて変動します。
Q. 定率取り崩しは本当に資産が尽きませんか?
残高に率を掛けて取り崩すため、計算上は残高がゼロになりません。ただし資産が大きく減れば、その分だけ毎月の受取額も減ります。「生活費が保証される」という意味ではなく、枯渇リスクが受取額の減少という形に置き換わっている、と理解するのが正確です。
Q. 4%ルールの「4%」は定額と定率のどちらですか?
本家の4%ルールは「引退時資産の4%を初年に取り崩し、以後は物価上昇に合わせて増額する」もので、どちらかといえば定額に近い方式です。毎年の残高に4%を掛ける定率とは別物なので、混同しないよう注意してください。
Q. 定額と定率は組み合わせて使えますか?
どちらか一方に決める必要はなく、たとえば生活に最低限必要な部分は定額で、余裕部分は定率で、という考え方もあります。当サイトの取り崩しシミュレーションは方式ごとに試算できるので、両方の結果を見比べて検討できます。特定の方法を推奨するものではありません。
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